先に覚せい剤事件における弁護活動の難しさを書きましたが,先日,静岡地方裁判所に
おいて,覚せい剤の同種前科を有する被告人につき,二度目の執行猶予となった事案
がありました。

被告人の方は,約10年前に同種の前科があり,今回,約9年ぶりに知人から誘われる
形で覚せい剤を使用したことから,再度,覚せい剤取締法違反で逮捕・起訴されたこと
から,当職が,私選弁護人に就任することになりました。

覚せい剤事犯については,一度目は殆どと言ってよいほど執行猶予となるものの,再犯
率が非常に高い犯罪であり,また,一度依存状態に陥ると,依存症から脱却することは
とても困難な極めて危険な薬物であることは,最近の某有名歌手の事件などをご覧頂い
てもご理解頂けると思います。

そのため,被告人の方も,10年近く覚せい剤から離れていたにも関わらず,ちょっとした
気の緩みから覚せい剤を使用してしまい,結果として,再び刑事被告人として法廷で裁判
を受ける立場になりました。

もっとも,被告人の方は,前回事件後,とても安定した生活を営まれており,本人の優し
い性格が評価されてホームヘルパーとしても活躍していたほか,結婚されたご主人から
もとても理解されていたことから,一般情状という観点からは,良い情状が多く揃ってい
る事案でした。

当該事案につき,被告人の方のご主人や,勤務先の上司の方の情状証人としての申請
のほか,ご本人にも,薬物関連の参考図書を読んで頂いた上,薬物依存からの回復の
ための自助グループであるダルクの関連ミーティングや,心療内科への通院等のできる
限りのことをしてもらい,当該事情を情状立証で詳細に立証した上,薬物依存は,様々な
心理的・社会的背景を持つ疾患であり,薬物依存者が本当に更生するためには,刑務所
における画一的な矯正教育ではなく,社会内において,被告人の更生を信じる人物らと
の交流を継続した上で,適宜,ダルク等の自助グループや医療機関の受診等を通じて
被告人が覚せい剤依存症を治療するための具体的なケアを行うことが必要不可欠で
ある旨弁論をしました。

その結果,裁判所は,やはり二度目の覚せい剤の事件ということや,被告人の薬物依存の程度は決して軽視できず,再犯の危険性が高いものの,他方で,被告人の身を案じ,
その更生を信じる多くの人の存在や,被告人自身の反省と改善更生に向けての意欲や
行動からすれば,もう一度だけ社会内において立ち直る機会を与えることが,本当にぎり
ぎりの判断であるが,被告人の更生にとって資するものであるという理由から執行猶予
5年という長期でしたが,執行猶予判決の言い渡しをしました。

また,静岡地裁の裁判長は,非常に厳格な印象であっただけでなく,判決言い渡し時の
量刑理由等についても,被告人にとってとても分かりやすく,また,非常に感銘力のある
説諭を長い時間をかけて行いましたので,被告人の方も,大変感極まられた様子でした。

以上のような覚せい剤の事件は,人間が持つ弱さに根差した犯罪であり,人間や社会が
存在する限り決してなくなることはない犯罪類型であると思いますが,弁護人の活動の
如何によって被告人の更生に大きな違いを生じうる犯罪類型であり,その意味では,
刑事弁護にとって基本的な要素が多く含まれるものであると思いました。

以上,ご報告まで。

犯罪であると

沢田法律事務所